【トラック新法】令和7年6月成立!運送業界に大きな影響を与える法改正のポイント解説

2025年6月4日、参議院本会議において、「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」および「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律案」がいずれも可決・成立しました。これら二つの法案いわゆる「トラック新法」は現在の運送業界が抱える構造的課題を是正するための抜本的な法改正として大きな注目を集めています。
この改正は、1990年に施行されたいわゆる「物流二法」――それまでの免許制から許可制への転換を実現した規制緩和以降では、約35年ぶりとなる大規模な制度の見直しとなります。
かつての規制緩和は、新規参入の促進や運送事業の多様化といった効果をもたらす一方で、業界内には多重下請構造、過当競争、低運賃構造、ドライバーの長時間労働・低賃金といった深刻な課題が長年にわたって積み重なってきました。とりわけ、2024年問題(働き方改革関連法による時間外労働の上限規制)により、ドライバー不足と物流機能の維持が喫緊の社会課題となるなかで、国は制度的な歯止めを講じる必要に迫られていました。
今回の「トラック新法」は、そうした背景を受け、事業許可制度の更新制導入、適正原価制度の創設、無許可業者の排除、多重下請構造の是正、そしてドライバー処遇の適正化といった複数の柱を通じて、運送業の健全な競争環境と、持続可能な物流インフラの構築を目指す大改革と位置づけられます。
運送業界にとっては、これまでのビジネスモデルや委託契約の在り方、安全管理体制、労働環境まで含めて見直しを迫られることになり、まさに制度的な「大転換期」に入ったといえるでしょう。
本記事では、運送事業者や関係事業者の皆さまにとって特に重要なポイントを分かりやすくまとめています。
トラック新法とは?
物流の基幹インフラであるトラック運送業界において、長年の課題とされてきた「多重下請構造」や「低運賃問題」「過酷な労働環境」に対応するために、法制度が抜本的に見直されました。
正式名称:「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律案」
成立日:令和7年(2025年)6月4日
施行予定:公布日から3年以内(政令で定める日)
改正の背景
- 2024年問題によるドライバー不足の顕在化
- 多重下請け構造による運賃の中抜き・安全管理責任の曖昧化
- 労働者の処遇改善要請(物流法の見直しとも連動)
主な改正内容
1. 【更新制の導入】5年ごとの許可更新が義務化
これまで一度許可を受ければ半永久的に有効だった運送業の許可制度が、5年ごとの更新制に移行します。
- 対象:一般貨物・特定貨物事業者
- 初回更新は現行事業者に対して2年の猶予
- 更新審査では法令遵守・安全管理・適正原価の確認がされる
2. 【多重下請けの制限】原則2次請けまでを推奨
真荷主から受託した貨物について、3次以降の下請けを制限する努力義務が課されます。
国交省は実運送体制の把握を義務づけるなど、透明性のある委託構造を促します。
3. 【白トラ対策の強化(無許可業者との取引禁止)】
無許可で運送事業を行う事業者「白トラ」への委託が明確に禁止され、罰則付きとなりました。
- 元請・荷主が「知らなかった」では済まされない時代へ
- 国土交通大臣は荷主に対しても要請・勧告・公表が可能に
4. 【適正原価制度の創設】
人件費・燃料費・減価償却費などを反映した**「適正原価」を国が告示。
これを下回る運賃・料金設定は禁止され、特に元請け事業者に対して価格交渉や是正が求められます。
- 荷主との価格交渉義務も法的根拠が強化
- 差し引きでは“実質的な最低運賃”の導入ともいえる改正
5. 【労働者処遇の適正化】
ドライバーの能力や知識に応じた適正な賃金支払の義務化。
労働環境の健全化が法令上の責任となり、処遇改善が事業者の義務として明文化されました。
今後の対応ポイント
- 更新制度導入に備え、法令遵守体制の見直しが必須
- 運送委託契約の適正化と、体制管理簿の整備
- 労働時間・賃金体制の内部評価と見直し
- 無許可業者との取引の排除策を構築
まとめ
「トラック新法」は単なる制度変更ではなく、今後の運送事業の“在り方”を問う内容になっています。
今後、施行までに政令・省令・ガイドラインが順次整備される見通しです。
行政書士として、制度導入前の準備支援、更新審査への対応、内部体制整備コンサルティングを通じて、現場の皆様をサポートしてまいります。