【知らずに選んでいないか?】
営業所・車庫の選定と市街化調整区域というハードル

運送業の新規許可、新たに営業所を開設などを目指す事業者の中には、「場所と価格が条件で良い物件だ」「この広さはここしかない」といった理由で知らずに市街化調整区域を候補地に選ぶケースが少なくありません。ところが、都市計画法の規制や制度運用を正しく理解していないと、後になって「営業所が建てられない」「開発許可が必要だった」といった問題に直面し、手続きのやり直しや余分な費用が発生することもあります。
市街化調整区域は、確かに魅力的な条件を持つ一方で、施設設置に関しては誤解されがちなポイントが多く、慎重な判断が求められます。本記事では、運送業許認可における施設選定の基本的な考え方と、市街化調整区域に関する注意点を整理します。
市街化調整区域とは何か
市街化調整区域は、都市計画法に基づき「市街化を抑制すべき区域」として指定されたエリアです。目的は、無秩序な都市拡大を防ぎ、インフラ整備の負担を軽減することにあります。
この区域では、原則として建築行為や開発行為が制限されており、住宅や事務所などの新築は許可制となります。例外的に認められるケースもありますが、開発許可や農地転用など、複数の法令手続きが絡むため、実務上はハードルが高いのが現実です。
運送業許認可と施設要件の関係
一般貨物運送事業の許可を新規取得する場合や営業所を新たに増やす場合は、営業所・車庫・休憩施設などの施設要件を満たす必要があります。特に営業所は、事業の拠点として都市計画法上の「建築物」に該当するため、市街化調整区域への新設は原則として認められません。
一方、車庫については、建築物を伴わない形であれば市街化調整区域であることは問題になりません。見るべきところは地目で、農地には設置できません。(もちろん前面道路の幅員などの要件もあります。)
建築物を伴わないということは、プレハブやコンテナなど「建築物」と判断されるため許可なしでは簡易なものであっても設置できません。
特に、営業所と車庫が離れて設置する場合などは、遠隔点呼を採用するケースがあり、遠隔点呼には車庫側に一定以上の機器の設置の要件があり何らかの施設が必要となります。つまり、市街化調整区域では難しいケースとなるわけです。
トレーラーハウスという選択肢
このような制約の中で、営業所機能を市街化調整区域に設ける方法として「トレーラーハウス」の活用が一部で検討されています。トレーラーハウスは、設置方法によっては「車両」として扱われ、建築規制の対象外となる可能性があります。
ただし、これはあくまで条件付きの可能性であり、車輪の有無やライフラインの接続方法など、細かな基準を満たす必要があります。また、自治体によって判断基準が異なるため、設置前に必ず事前協議を行うことが不可欠です。
よくある誤解と注意点
- 「不動産業者が大丈夫と言っていたから」→不動産業者の説明は都市計画法の専門的判断を含まないことが多く、鵜呑みにすると後で建築指導課から是正指導を受ける可能性があります。
- 「プレハブなら簡単に置けると思った」→プレハブでも建築物と判断されることがあり、開発許可が必要になるケースがあります。
- 「営業所は車庫の隅に置けばいい」→営業所は建築物としての要件を満たす必要があり、設置場所だけでなく法的地位が問われます。
結論:まずは事前協議から
市街化調整区域に施設を設ける場合、都市計画法・建築基準法・農地法など複数の法令が関係します。運送業許可の取得を前提とするならば、候補地の選定段階から自治体との事前協議を行い、制度上の可否を確認することが最も重要です。
トレーラーハウスの活用も含め、制度の隙間を突くような方法は、法令の趣旨を理解した上で慎重に検討すべきです。誤解や思い込みによって、余計な手間や費用が発生することのないよう、正確な知識と冷静な判断が求められます。