巡回指導とは?

運送事業者のための巡回指導ガイド

運送事業者のための巡回指導ガイド

「巡回指導」とは、運送事業者が貨物自動車運送事業法などの法令を適切に遵守しているかを確認するために、 国土交通省の認可を受けた適正化事業実施機関が事業所を訪問し、帳票類や運営状況などをチェックする制度です。 この制度は指導・助言が目的であり、直接行政処分を行うものではありません。 ただし、重大な法令違反が発見された場合には、国土交通省へ報告され、 行政処分の対象となる可能性があることに注意が必要です。

巡回指導で確認される主な項目

  • 点呼・運転者台帳・整備記録などの帳票の管理状況
  • 労働時間や休息時間の管理(いわゆる「改善基準告示」への適合)
  • 適切な運行管理体制や整備管理体制が構築されているか
  • 名義貸し・白ナンバー営業・重大事故などの法令違反の有無

Gマーク取得を目指す事業者へ: Gマーク(安全性優良事業所認定制度)を希望する場合には、 巡回指導の結果が評点に直結します。日頃からの準備が認定取得の鍵となります。

巡回指導はいつ?どうやって行われるのか?

実施頻度と実施機関

巡回指導は、概ね2~3年に1度、地域を管轄するトラック協会などの適正化事業実施機関によって行われます。 事前に文書や電話で連絡があり、訪問日時が調整されたうえで、事業所に指導員が訪問する形で実施されます。

Gマーク申請時の巡回指導

Gマーク申請を行う場合は、前年7月1日から申請した年度の10月31日までの期間で最低1回行われます。 このときの評価結果が、Gマークの「Ⅰ安全性に対する法令の遵守状況」の評価点になります。

評価について

巡回指導は、「Ⅰ事業計画等」「Ⅱ帳票類の整備、報告等」「Ⅲ運行管理等」「Ⅳ車両管理等」「Ⅴ労基法等」「Ⅵ法定福利」「Ⅶ運輸安全マネジメント」の 合計38項目について、できているか否かにより評点が決まります。

評価 評価「適」の割合
A 90%以上 35以上 3以下
B 80%以上 31~34 4~7
C 70%以上80%未満 27~30 8~11
D 60%以上70%未満 23~26 12~15
E 60%以下 22以下 16以上

重要ポイント: 重点項目(9項目)に「否」があると1ランクダウンとなります(重複のダウンはありません)。 つまり、重点項目を一つでも満たせていない場合、例えばA評価だったものがB評価になる可能性があります。

巡回指導当日の流れ

指導当日は、運行管理者や整備管理者などの責任者の立ち会いのもと、以下のような手順で進められます:

  1. ヒアリング(聞き取り)
    事業所の体制や実施状況について口頭で確認されます。
  2. 帳票類の確認
    運転者台帳、点呼記録簿、整備記録簿、乗務記録、運行指示書など、法令で定められた帳票の保管・記載状況がチェックされます。
  3. 指摘事項の説明と助言
    法令違反や不備がある場合、その場で指摘され、改善の指導が行われます。重大な違反があった場合は、是正報告書の提出を求められることもあります。

巡回指導は「突然来る」ものではありませんが、いざというときに慌てないためにも、日頃から帳票の整備と運用体制の維持が大切です。 とくに、Gマークの申請や更新を予定している事業者にとっては、巡回指導の結果が申請可否に大きく影響しますので、早めの準備をおすすめします。

巡回指導の項目と確認帳票

巡回指導では、以下の項目について確認が行われます。◎印がついている項目は重点項目です。

区分 重点 指導事項 確認帳票類等
I.
事業計画等
1. 主たる事務所及び営業所の名称、位置に変更はないか。 登記簿謄本、経営許可申請書、事業計画変更認可申請書(行政受領印等確認)
2. 営業所に配置する事業用自動車の種別及び数に変更はないか。 経営許可申請書、事業計画変更事前届出書、車両台帳、点呼記録簿、乗務等の記録(運転日報)、自動車検査証等
3. 自動車車庫の位置及び収容能力に変更はないか。 経営許可申請書、事業計画変更認可申請書
4. 乗務員の休憩・睡眠施設の位置、収容能力は適正か。 経営許可申請書、事業計画変更認可申請書
5. 乗務員の休憩・睡眠施設の保守、管理は適正か。
6. 届出事項に変更はないか。(役員・社員、特定事業者に係る運送の需要者の名称変更等) 事業概況報告書、登記簿謄本、役員変更届
7. 自家用貨物自動車の違法な営業類似行為(白トラの利用等)はないか。 総勘定元帳、経費明細書、点呼記録簿、乗務等の記録(運転日報)
8. 名義貸し、事業の貸渡し等はないか。 固定資産台帳、経費明細書、保険関係加入台帳、点呼記録簿、乗務等の記録(運転日報)、賃金台帳、車両台帳
II.
帳票類の整備、報告等
9. 事故記録が適正に記録され、保存されているか。 事故記録簿、自動車事故報告書
10. 自動車事故報告書を提出しているか。 自動車事故報告書、事故記録簿
11. 運転者台帳が適正に記入等され、保存されているか。 運転者台帳
12. 車両台帳が整備され、適正に記入等がされているか。 車両管理台帳、自動車検査証の写し、自賠責保険証書の写し等
13. 事業報告書及び事業実績報告書を提出しているか。(本社巡回に限る。) 事業報告書(事業概況報告書、貸借対照表、損益計算書、損益明細書、人件費明細書)の控え、事業実績報告書の控え
III.
運行管理等
14. 運行管理規程が定められているか。 運行管理規定(選任要件)、運行管理者資格者証、基礎講習(3日間)の修了証
15. 運行管理者が選任され、届出されているか。 運行管理者選任(解任)届出書、運行管理規定、運行管理者資格者証、車両台帳
16. 運行管理者に所定の講習を受けさせているか。 運行管理者等指導講習手帳、事故記録簿
17. 事業計画に従い、必要な運転者を確保しているか。 経営許可申請、運転者台帳
18. 過労防止を配慮した勤務時間、乗務時間を定め、これを基に乗務割が作成され、休憩時間、睡眠のための時間が適正に管理されているか。 運行計画表(乗務割表)、運行指示書、乗務等の記録(運転日報)、運行記録計による記録(チャート紙等)、乗務管理一覧表(拘束時間管理表)
19. 過積載による運送を行っていないか。 受注伝票、乗務等の記録(運転日報)、自動車検査証等
20. 点呼の実施及びその記録、保存は適正か。 点呼記録簿、点呼執行要領(運行管理規定)
21. 乗務等の記録(運転日報)の作成・保存は適正か。 乗務等の記録(運転日報)
22. 運行記録計による記録及びその保存・活用は適正か。 運行記録計による記録(チャート紙又はデジタル式運行記録器による電磁的記録)
23. 運行指示書の作成、指示、携行、保存は適正か。 運行指示書、点呼記録簿、乗務等の記録(運転日報)
24. 乗務員に対する輸送の安全確保に必要な指導監督を行っているか。 乗務員(運転者)教育記録簿、教育実施計画表
25. 特定の運転者に対して特別な指導を行っているか。 乗務員(運転者)教育記録簿、運転者台帳、新規採用運転者の事故歴把握、自動車安全運転センターが発行する運転記録証明書・無事故・無違反証明書
26. 特定の運転者に対して適性診断を受けさせているか。 運転者台帳、事故記録簿、適性診断受診計画表、適性診断受診結果表
IV.
車両管理等
27. 整備管理規程が定められているか。 整備管理規定、日常点検表、定期点検整備実施計画表
28. 整備管理者が選任され、届出されているか。 整備管理者選任(解任)届出書
29. 整備管理者に所定の研修を受けさせているか。 整備管理者研修手帳等
30. 日常点検基準を作成し、これに基づき点検を適正に行っているか。 日常点検基準、日常点検表
31. 定期点検基準を作成し、これに基づき、適正に点検・整備を行い、点検整備記録簿等が保存されているか。 定期点検基準、定期点検整備実施計画表、点検整備記録簿又は写し
V.
労基法等
32. 就業規則が制定され、届出されているか。 就業規則
33. 36協定が締結され、届出されているか。 36協定書
34. 労働時間、休日労働について違法性はないか。(運転時間を除く) 出勤簿、タイムカード、賃金台帳、運行計画表(勤務割当表など)、乗務等の記録(運転日報)、運行記録計による記録(チャート紙など)、36協定
35. 所要の健康診断を実施し、その記録・保存が適正にされているか。 健康診断書、健康診断記録簿(健康診断個人票)、運転者台帳
VI.
法定福利
36. 労災保険・雇用保険に加入しているか。 労災保険加入台帳、雇用保険加入台帳、賃金台帳、その他(資格の取得が確認できる書類など)
37. 健康保険・厚生年金保険に加入しているか。 健康保険加入台帳、厚生年金保険加入台帳、賃金台帳、その他(資格の取得が確認できる書類など)
VII.
運輸安全マネジメント
38. 運輸安全マネジメントの実施は適正か。 運輸安全マネジメントの取組についての掲示物等、安全管理規定、安全管理規定設定(変更)届出書、安全統括管理者選任(解任)届出書

巡回指導のポイント

巡回指導で問われる項目は、どれも一時的な対応ではなく、日々の業務として継続的に取り組むことが求められています。 点呼や帳票類の整備、安全教育や整備計画など、どれも一つひとつは地道な作業ですが、 積み重ねることで確実に体制が整い、現場の安定につながります。

最初は手間や負担を感じることもあるかもしれません。けれども、正しい理解のもとに丁寧に取り組み、 それを業務のルーティンとして根づかせていくことで、自然と「当たり前」になっていきます。 巡回指導の準備は、単なる点検のためではなく、安全と信頼を守るための日常の確認でもあります。

何より大切なのは、一度きりの対応ではなく、継続して見直し・維持していく姿勢です。