貨物自動車運送事業者が毎年提出すべき「事業報告書」および「事業実績報告書」は、巡回指導でもチェックされる重要書類です。 第5回目となる本シリーズでは、報告書作成にあたってのルールや注意点、提出漏れや記載ミスによるリスクについて、実務の視点から分かりやすく解説します。
法令の確認:貨物自動車運送事業法60条(報告の徴収及び立入検査)
貨物自動車運送事業報告規則2条(事業報告書及び事業実績報告書)
貨物自動車運送事業法法60条「国土交通大臣は、この法律の施行に必要な限度において、国土交通省令で定めるところにより、貨物自動車運送事業者に対し、その事業に関し報告をさせることができる。」
貨物自動車運送事業報告規則2条「貨物自動車運送事業者(貨物軽自動車運送事業者を除く。)は、次の表の第一欄に掲げる事業者の区分に応じ、同表の第二欄に掲げる国土交通大臣又はその主たる事務所の所在地を管轄する地方運輸局長に、同表の第三欄に掲げる報告書を、同表の第四欄に掲げる時期に提出しなければならない。」
1.「事業報告書」
「事業報告書」は、一般貨物自動車運送事業者が毎事業年度終了後に提出しなければならない、いわば「決算報告書」のようなものです。
この報告書は、国土交通省または所管の運輸支局に対して、事業運営の実態を明らかにするために提出します。
報告書は次の5つの書類で構成されています:
⑴事業概況報告書
⑵一般貨物自動車運送事業損益明細表
⑶一般貨物自動車運送事業人件費明細表
⑷損益計算書(P/L)
⑸貸借対照表(B/S)
■ 報告対象の範囲
事業が「一般貨物運送業」のみであれば、その損益等のみを記載すれば問題ありません。
しかし、レンタカー業や倉庫業など他の事業も営んでいる場合は、「一般貨物自動車運送事業」の部分だけを切り分けて報告する必要があります。
■ 提出しないとどうなる?
事業計画変更申請が通らない
報告書が未提出のままだと、事業計画変更(営業所・車庫の変更、車両増車等)に関する申請は受理されても、審査が進まず、窓口または補正時に報告書の提出を求められます。
巡回指導でマイナス評価
未提出であることが発覚すると、巡回指導時に指摘され、評価が下がる可能性があります。
■ 提出概要
項目 | 内容 |
様式 | 運輸支局の定める様式(任意様式も可) |
提出期限 | 事業年度終了後 100日以内 |
提出先 | 営業所の所在地を管轄する運輸支局 |
提出部数 | 原則1部(副本・含め2部提出が一般的) |
■ 各書類の記載内容
〈表紙〉
事業者番号:許可証に記載の番号を記載
対象年度:「全期」で記載。通常は4月1日を含む年度
〈事業概況報告書〉
経営している事業の内容(例:一般貨物自動車運送事業)を記載
登記簿謄本等で確認
〈一般貨物自動車運送事業損益明細表〉
決算書の該当項目をもとに転記
主な項目:
営業収益:運送運賃、その他雑収入など
営業費用(運送費):人件費、燃料費、修繕費、保険料、減価償却費など
営業費用(一般管理費):事務員や役員等の人件費など
営業外収益・費用:金融収益・費用など
営業損益・経常損益:上記の収益と費用の差額
〈 一般貨物自動車運送事業人件費明細表〉
運転者、整備担当者、配車係、事務員などの人件費を区分して記載
役員報酬も含めます
〈貸借対照表・損益計算書(P/L・B/S)〉
法人税申告に使用する決算書の写しをそのまま添付することが可能です
2.事業実績報告書
■事業実績報告書とは
事業実績報告書とは、貨物自動車運送事業法に基づき、一般貨物自動車運送事業者、特定貨物自動車運送事業者、貨物軽自動車運送事業者が、前年度の事業実績を国土交通大臣(実際には地方運輸局長を経由して)に報告するための書類です。
この報告書には、主に以下の内容を記載します。
- 輸送実績: 年間輸送トン数、走行キロ、実車率など
- 車両実績: 事業用自動車の増減、車両台数など
- 財務状況: 運送収入、営業費用、純利益など(一般貨物自動車運送事業者のみ)
- 事故状況: 発生した事故の件数や損害状況
これらの情報は、運送事業の健全性や安全性を評価するための基礎資料となります。また、行政側はこれらのデータを集計・分析することで、運送業界全体の動向を把握し、必要な政策立案や規制の見直しに役立てています。
■提出先、提出期限
事業実績報告書の提出先と提出期限は以下の通りです。
提出先
事業実績報告書は、原則として本社営業所を管轄する運輸支局の輸送担当窓口に提出します。
ただし、特別積合せ貨物運送を行う一般貨物自動車運送事業者で、運行系統が2以上の地方運輸局長の管轄区域にわたり、かつ、その起点から終点までの距離の合計が100km以上の場合は、直接国土交通大臣への提出が必要です。
また、都道府県によっては、トラック協会が会員事業者に代わって、運輸支局への提出を代行している場合があります。この場合は、トラック協会の指示に従って提出することも可能です。最終的な提出先は運輸支局ですが、トラック協会が仲介している形です。
提出期限
事業実績報告書の提出期限は、前年4月1日から3月31日までの実績について本年7月10日までです。
会社の決算日は関係ありません。事業報告書とは違いますので注意が必要です。
■記入のポイント
事業実績報告書の記入にあたっては、以下のポイントに注意しましょう。
- 正確性: 記載する数字や情報は、帳簿や記録に基づいて正確に記入してください。虚偽の報告は許されません。特に輸送実績や車両実績、財務状況は慎重に確認しましょう。ただし、輸送のトン数などは正確な数値は難しいと思われますので、できる限り近い数値を報告すること。計算に一貫性があり、合理性があるようにしましょう。
- 根拠資料の準備: 報告書の記載内容を裏付ける帳簿類や伝票、記録は、いつでも確認できるように整理・保管しておきましょう。後日、行政から問い合わせがあった際に速やかに提示できるようにしておくことが重要です。
- 計算の確認: 輸送キロや実車率などの計算ミスがないか、複数人で確認することをお勧めします。特に電卓での手計算の場合、誤りやすい部分です。
- 継続性: 過去の報告書と比較して、大幅な数値の変動がないか確認しましょう。もし大きな変動がある場合は、その理由を説明できるように準備しておくことが望ましいです。
- 最新の様式の利用: 国土交通省のウェブサイトで公開されている最新の様式を使用しましょう。様式が更新される場合がありますので、古い様式を使用しないよう注意が必要です。
- 不明点の確認: 記入方法に不明な点があれば、管轄の運輸支局や顧問の行政書士に相談してください。自己判断で誤った情報を記載するよりも、専門家の意見を求める方が確実です。
